979795 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Selfishly

Selfishly

Act4 「交差 2」


at the Truth in the Mirror Image


act4「交差 2」

H18,9/12 03:00

ふとした瞬間に重なる情景は、似ていると思う事で
『違う』事を強く認識させる。
どれだけ同じような言葉を、同じ表情で言われても
それは結局・・・、別の情景なのだと思い知らされるだけ。



「兄さん、本当に大佐に報告しなくていいの?」

心配そうに聞いてくるアルフォンスは声だけで、
表情は変らない・・・、変えようもない。

「いいんだよ!
 アイツの管轄でトラブッたなんて知られてみろ、
 どんな嫌味を言われるかわかったもんじゃねえ。
 ッツツ!」

「だ、大丈夫!
 やっぱり、きちんと病院に行って治療してもらった方がいいよ!。」

「だ・・大、丈夫ダ。
 ちょっと、響いただけだから。」

「響いたって・・・、もしかしたら 骨とかに異常があるんじゃ・・・。」

心配そうに聞いてくるアルフォンスに、
エドワードは、そんな事ないという風に手を振って、
そっとベットに横になった。

骨に異常があるというわけではない・・・と思う。
多分、かなり打ち身が酷かったのだろう。
エドワードは そう考えて、浅く息を吐き出す。

テロの起こした爆発から、逃げ遅れた親子を助けようと
練成をしたまでは良かったのだが、
間一髪の状態だった事も有り
自分の方までは間に合わず、爆風で飛ばされてきた石のせいで
無数の傷を負うことになった。
憲兵が病院へと誘導するのを上手くまき、
何とか 宿まで転がり込んできたはいいが、
痛手は思ったより大きかったようで、
容態があまり芳しくない。

『こうなりゃー、
 別の街まで移動して、病院を探すか・・・。』

全くついてない。
何もイーストシティーで、こんな事にならなくても・・・。
他の街でなら、誤魔化しも時間稼ぎもできたと言うのに
ここでは近すぎて、どうしようもない。
そんな事をつらつらと考えながら、
時折、酷くなる痛みに耐えている。

「兄さん・・・。」
アルフォンスは、じっとうずくまる様にベットに寝転がるエドワードに
堪り兼ねて声をかける。
『やっぱり、大佐に連絡して
 病院に入れてもらった方がいいかも知れない。』
アルフォンスが決意も新たに、再度 エドワードに声をかけようと
そっとエドワードに 腕を伸ばそうとしている時に
階下から、激しい足音が聞こえてくる。

まるで、床を蹴りながら歩いているような足音は
エドワード達の部屋の前で、ピタリと止まる。

アルフォンスが、何だろう?と驚きながら扉を振り向くと
強引に扉を開けようとしている音が聞こえる。

「鋼の! この部屋に居る事はわかっている。
 とっとと、扉を開けろ!」

ノックと言うには荒々しすぎる音に、
アルフォンスの方が慌てて立ち上がる。

「アル!開けるな」

エドワードの静止の声に、一瞬 戸惑うが、
すぐに扉を開けるために近づいていく。
その間にも、扉を蹴破ろうとしているかのような音は続いている。

「アル!」
エドワードが、怒ったように後ろで叫んでいるのは無視して
扉の鍵を開ける。

鍵が外された途端、扉が力任せに開かれる。
アルフォンスの鎧の腕のリーチが短ければ
扉に弾き飛ばされていただろう勢いだ。

「アルフォンス、鋼のは どこだ。」

あれだけ激しく扉を叩いていたとは思えない
静かな声で、ロイが言葉を放つ。
静かな口調なのに、アルフォンスは 思わず肩をすくめる。
トーンを押さえた低い声は、まるで その下にある怒りを
押し込める為に、ギリギリに絞られたラインを現しているようだ。

「あ、あのっ・・・中に。」

しどろもどろに答えるアルフォンスをおいて、
ロイは さっさと中に進んでいく。

そして、ベットから起き上がっているエドワードを見つけると
目の前で立ち止まり睨みつける。

「鋼の・・・。」

「あ、あの・・大佐・・・。」
何とか大佐の怒りを抑えてもらおうと
声をかけようとしたアルフォンスは
大佐の震える肩を見て、はっとなって声を押し込む。

ロイの肩が震えているのは、
力一杯に握られた拳のせいだ。
固く握られている拳は、余りにも強く握り締められているせいか
小刻みに震えている。


「な、何だよ、アンタ。
 いきなり過ぎんじゃないのか。」

自分の分の悪さを隠すようにエドワードは
進入してきたロイを非難する。

「君は・・・、何故 連絡をして来なかったんだ。」

ロイの声は、静か過ぎるほど静かで、
この状況でさえなかったら、
彼が 怒っている事さえも、声からだけではわからないだろう。

「・・・別に、たいした事でもないし。」

そう小さく告げると、気まずそうに顔を背ける。

「鋼の。
 たいした事か、そうでないかは私が決める事だ。

 自惚れるのもいい加減にしろ。」

冷たく吐き捨てられるように語られた言葉に
瞬間 エドワードは 怒りの余りカッとなる。

「自惚れてるんじゃない!
 俺の事は俺が決める。

 確かに、あんたの管轄で迷惑かけるのは申し訳ないとは思う。
 だから、なるべく知られないようにしたんだ!」

それだけ言うのもしんどいのか、
エドワードは ベットの背もたれに凭れかけて
荒い息を付いている。

「鋼の!いい加減にしろ!」

入ってきて始めてのロイの怒号に、
言われているエドワードだけでなく、
後ろにいるアルフォンスまで、首をすくめる。

そして、エドワードの方に手を伸ばすロイを見て、
アルフォンスは、兄が殴られるのかとギョッとする。
エドワードも、咄嗟に目を瞑り首をすくめる。

「どれ程心配したか・・・・。

 無茶はするな。」

ロイは 静かにエドワードを抱きしめる。
傷にさわらぬように、そっと羽に触れるように。

そして、そのまま抱きかかえると
踵を返して扉に向かう。

「ちょっ、大佐!」

抱き上げられて驚いたエドワードがもがく。

「静かにしていろ。

 口をきくのもしんどいのだろう。

 アルフォンス、鋼のを病院に連れて行くぞ。」

「はい! 」ホッとしたように明るい声で
アルフォンスも返事を返す。

結局、エドワードは 骨に何箇所かひびが入っている重態で
そのまま入院を強制的にさせられる事になる。

アルフォンスやロイは勿論、その他の軍のメンバーにも
散々、説教をされると さすがのエドワードも
素直に謝るしかなかった。

ホークアイ中尉から、お見舞いにともらった花を生け
病室に入ろうと扉に手をかけると
中から話し声がする。

『あれっ? 誰か来たのかな?』
アルフォンスは、そっと中を窺うように耳をすます。


「鋼の。
 心配をかけないようにしようとする事は悪いことじゃない。

 が、心配もさせてもらえないと言うのも
 辛いものがあるんだよ。

 君を案じてくれている人の事を考えるなら
 きちんと知らせなさい。
 それが、思ってくれている人に対する礼儀だろ?

 もちろん、心配をかけないように無茶をしない事が
 先決だがね。」

 そう優しくかけられている言葉に、
 エドワードが珍しく素直に聞いている。

「ごめん・・・大佐。
 あんたの足を引っ張りたくなかったんだ・・・。」

「それこそ無用の心配と言うものだ。
 
 君に足を引っ張られる程、私は小さくも弱くもないさ。」

「なっ!
 それって、俺が小さいって言ってるのかよ!」

それにクスクスと笑い返している優しい空気が伝わる。

「そうじゃないさ。
 君一人位の面倒をみる事位、
 何ともないと言うことさ。

 だから、安心して迷惑をかけてきて欲しいと言う事だ。」

「・・・・うん、ありがとう・・・。」
最後の言葉は、小さく小さく呟かれた。

アルフォンスは、何となく入りそびれて
そのまま、部屋を後にする。

大佐と兄との間には、見えないながらも
しっかりと絆が築かれていっている。
少し寂しいような気もするが、
半面、あの孤独な兄を助けてやって欲しいとも思う。
誰にも頼る事も、自分にも甘えることが出来ない兄が
少しでも心を許せる人が居ることは
とても、大切な事だと思う。

アルフォンスは、二人が そうやって
ずっと仲良くして行ってくれればと
心から願い続ける。




© Rakuten Group, Inc.